その日は雨が降っていた。自分は少しでも雨に濡れまいと傘を深くさし早足で家に向かっていた。
見慣れた町、見慣れた道は傘深くさしているせいか、まるで知らない町に迷い込んだかのように冷たい。周りなど気にせず歩いていたはずなのにふと違和感に気付き自分は周囲を見渡した。すると、今来た道にあるはずのない脇道があったことに気付いた。不思議に思い急いでそこに戻ると、若い男が一人で傘もささずたっていた。男は何かを待って立っているというよりかは義務感から立っているようだった。
自分は男に聞いた
「なにされているのですか?」
男は感じよく答える
「私は、みなさんが時の崖を知らずに落ちないように見守っているんですよ。」
「時の崖?」
「そう、時の崖。」
少しの間男の意味のわからない返答に戸惑ったが、男の態度やこの普段は存在していない道を目の前にすると男が嘘を言ってるとは思えなかった。
「時の崖とはなんなんですか。」
「う~ん、説明しずらいな。まぁとにかく危険な所だよ」
「行ってみてもいいですかね。」
「私はあなたを留める権利どこにもないわけだからあなたが行こうと思うなら行ってもいいですよ。」
自分は男の言葉に矛盾を感じさらに聞いた
「じゃあ、なぜあなたはここに立っているんですか。」
男は少し笑い答えた
「私は忠告をしているんですよ。興味本意でここを行こうとする人にね。」
「忠告?」
「実際はこの先行っても結局只の行き止まりなんですよ。こっからじゃそうとは見えないですけどね。」
「じゃあ時の崖は何処にあるんですか。」
「行き止まりの手前にありますよ。ただこの先が行き止まりと分かる前に時の崖に落ちてしまうからたちが悪いんですよ。」
男はまるで行ってきたかのように話すので、どうやら戻ってこれそうだと判断し男に
「じゃあちょっと時の崖がどんなものか見てきます。」と言って去ろうとすると男は最後に
「時の崖は、肉体ではなく精神に働き掛けます。気をしっかり持って下さい。」
よくわからなかったが、とりあえずうなずき自分は時の崖へ進んでいった。
道は長くまっすぐに続いており、道の両端高い塀によって視界を阻んでいる。まるで世界には自分と道といっこうにやむ気配のない雨だけしかない、そんな感じがした。するとうっすら先に行き止まりが見えた。と思うと同時に壁が自分に向かって迫ってきてぶつかった
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気付くと自分は倒れていた。というよりむしろ、自分が倒れていることに気が付いた。なにが起こったのかはわからなかった。只、壁が見える、壁が迫ってくる、壁にぶつかる、倒れていることに気付く、すべての事象はすべて同時に起きたように感じた。
背中はほぼ濡れていないので、どうやら倒れてすぐ気が付いたらしい。また、ぶつかったはずの壁はまだ遠くにうっすら見えるだけだった。
倒れたせいで濡れたことに腹を立てつつまた壁に向かい始めた。壁の前で壁はやはり何もない只の壁であることを確認した。ということは、時の崖はおそらく倒れてたところにあったのだろう、と考えつつ戻ることにした。
時の崖とはなんなのか、まだその時は理解できていなかった。
倒れた所に戻りもう一度考えたが時の崖とはなんなのかわからなかったので戻ろうと右足をあげた時自分は異変に気が付いた。
雨の粒が見える
むしろ雨の粒が止まっている
また右足が動こうとしない
それどころか体すべてが動こうとしない
只、意識だけが動いている
そんな感じがする。どうやら時の崖にぶつかったらしい
ゆっくり自分は考え始めた。どれだけの時間考えていたのだろうか。周りが止まって見えるためわからない。また耳にはずっと雨の音が聞こえている。1週間たった気もするし、まったく時間がたっていない気もする。
しかし、自分の中ではある1つの結論がでた。今起こっている事象と男の言葉
「時の崖は、肉体ではなく精神に働き掛けます」
この2つから時の崖は人間の意識の暴走であると推測した。
行き、つまり時の崖から落ちるということは肉体つまり現実の時間に対して、精神つまり人間が意識している時間だけが急速に流れる。意識が暴走してしまうということなのではないか。
だから意識は壁に近付いているが体がついていかずバランスを崩して倒れた。しかし意識の変化が早すぎてすべて同時に起こったように感じたのではないのか。
逆に時の崖を登っている今は、肉体が精神より大きく先行している。つまり、現実の時間変化に対してあまりにも意識の時間の変化が遅すぎるために一向に時が進まない、まるで時が止まっているのではないかと感じてしまっている。
しかし、その結論の正否は判断することはできない。が、自分の考えが正しければいつか時の崖から抜け出せるはずである。自分は待ち続けた。
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どのくらい時間がたった頃だろう。あることに気が付いた
果たして目が見えているのだろうか?
あまりにも長い時間まったく同じ光景を見ているため本当に目が見ているのかわからなくなってきた
それどころか
雨の音が聞こえているかどうかもわからない
宙に浮いてるのは右足だっけ?
それすらわからない
5感が働いているのかどうかわからなくなってきた
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そして考えることも止めた
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やっべ、自分死んじゃった
上の日記は嘘って事でお願いします。